主要な羅勲児の公演だと、「小鹿島の春」公演以来となる、2度目の当曲の採用となっている。
そして、楽団やバックボーカルから始まる曲のイントロの際、リモート観客に向かって、「さあ、皆さん、一緒に歌って下さい」、と声をかけている。
イントロから、軽快で心地よいリズムのバック演奏に乗り、羅勲児の独特の節まわしが炸裂している。
これぞ、「트로트」(トロット)音楽だ、と言うと、羅勲児に叱責されそうだけど
(「アリス」公演の中で、「トロット」と呼ばれるのは心外だ。「アリラン」だ、と述べている)、
実際には、韓国内でも、この呼び名は十分に浸透していて、「트롯」(トロット)とも書き表されるようだ。
さて、当曲は、珍しく、2コーラス目にも入っていて(通常は1コーラスのみが圧倒的に多い)、それも、あっという間に終わるが、バック演奏は終わらず、そのまま次の曲に移行するようだ。
(曲について)
韓国伝統歌謡曲の中で、最も広く長く歌われている曲で、1940年の作品。
後に、2度、同名の映画にもなっている。
当時、20代の歌手、「백년설」(ベクニョンソル)(白年雪)の2大代表曲のひとつで、もう1曲は、「나그네 설움」(旅人の悲しみ)だ。
これらの2曲は、KBSの「가요무대」(歌謡舞台)での登場頻度から見ても、他の曲より群を抜いて多く、1985年(「가요무대」歌謡舞台の開始年)から現在に至るまで、頻繁に番組内で、様々な歌手によって歌われていて、人気の高さがうかがわれる。
「백년설」(ベクニョンソル)は、日本公演も行っている。
1965年7月に2回、「日韓親善 白年雪一行 来日特別公演 」、と銘打って、公演が催されたようだ。
「번지 없는 주막」(番地のない酒幕)の、「酒幕」は、単に「居酒屋」くらいに理解していたのだけど、今回いろいろ調べてみると、少し違ったようだ。
「朝鮮半島の伝統社会において旅人が飲食や宿泊をする施設であり、情報交換の場でもあった」、とのことだった。
単なる居酒屋ではないのだったら、この曲の詞の、メロドラマ(感傷的な恋愛劇)的な場面も、少しは理解できたような気がしている。
(トロット音楽について)
英語の、「FOXTROT」(フォックストロット、ダンススタイルのひとつ)から由来していて、それが詰まり、「TROT」(早足で歩く)になる。
単に、KPOP(韓国流行歌)の総称だと考える人が多い。
ウィキペディア(Wikipedia)(ネット百科事典)によると、かなり違うようだ。
それによると、トロットの歌い方には、顕著な特徴があるとのことだ。
羅勲児の、「물레방아 도는데」(水車は回るのに)を、例に挙げていて、かなり詳細に、楽譜付きで説明している。
歌詞の、「또한번보고」(もう一度見て)のところで、「번」(ボン)は1音のみだけど、それを4音に細かく分割して、それぞれ音程を上げたり下げたりして歌っていて、この歌唱法なしでは、トロットを歌うのは不可能だ、と結論付けている。
これって、結局は、節まわし(歌い回し)のことでは、俗に言う、「小節(こぶし)のきいた歌い方」のことでは、と思ったものだ。
さらに、トロットの叙情的な詞の表現についても言及している。
2大テーマがあり、ひとつは、「愛と別れ」、もうひとつは、「故郷への想い」で、さらに、韓国文化における古代伝統の、「한」(恨み)の要素も加味している可能性がある、とのことだ。
歌詞の中に、「泣く」、「離れる」、などの感傷的な言葉が多いのもその一例だろう。
また、当公演も、1部「故郷」、2部「愛」なので納得しやすい。
(「트롯어워즈」(トロットアウォーズ)について)
2020年10月1日に、「트롯어워즈」(トロット賞)と称する歌番組が、TV朝鮮から放送されている。
このジャンルに貢献した、トロット歌手に、数々の賞を、授ける催しのようだ。
その中に、「트롯100년가왕상」(トロット100年歌王賞)、というのがあり、11名の歌手が受賞している。
송대관(ソンデガン), 현철(ヒョンチョル), 태진아(テジナ), 김연자(キムヨンジャ), 김수희(キムスヒ), 하춘화(ハチュンファ)
남진(ナムジン), 나훈아(ナフナ), 설운도(ソルウンド), 주현미(チュヒョンミ), 장윤정(チャンユンジョン)の面々だ。
実際に表彰式に出席したのは、
4名(하춘화(ハチュンファ)、남진(ナムジン)、설운도(ソルウンド)、 장윤정(チャンユンジョン))だけで、少々寂しいが、当然のように、羅勲児は現われていない。
そもそも、「トロット」、という言葉を否定していたのもあるので仕方がないだろう。
かつての、いわゆる好敵手、「남진」(ナムジン)が出席しているのとは好対照だ(彼は大らかで、あまり物事にこだわりを持っていないように見える)。
ちなみに、「트롯100년대상」(トロット100年大賞)、という賞もあり、これは、「이미자」(イミジャ)が受賞している。 これはこれで大納得だ。
MBCの野外公演歌番組、「한국인이사랑하는트로트명곡40선」(韓国人の愛するトロット名曲40選)、のオープニングで、彼女が、「섬마을선생님」(島の村の先生)を力強く、迫力満点で歌ったのが、鮮明に記憶に刻まれている。
歌を歌うのに、歌手の年齢は関係ないと痛感する瞬間だった。
(2021.03.26 美辞麗句)