画面では、中秋の満月の下、深い緑に覆われた山里の風景が現われる。何やら不気味な雰囲気だ。
その中の墓場のような場所にカメラが移動する。あたりは、ほの暗く、台上の蝋燭の明かりに向かって、男が正座し、手を合わせ、一心不乱に、お経を唱えている。
すると、台上の深皿の水が、にわかに動き出し、荒れた海のように暴れ始める…、
「大韓民国アゲイン 羅勲児」コンサート、第1部、「故郷」の冒頭の場面だ。
羅勲児のコンサートは、毎回、ほぼ例外なく、工夫を懲らしたオープニングの演出で始まる。
すんなりと、1曲目に入らないで、何らかの含みを持たせる。
観る側からすれば、何が、始まるのかわからない、いわゆるサスペンスの状態だ。自然と場面に惹き込まれることになる。
今回も、荒れた深皿の水から、実際の荒れた海面が映され、その中を船が、今にも海に飲み込まれそうになりながらも、航海を続けている。
すると、画面は真ん中から左右にふたつに分かれ開き始める。
そこからは、実際の船が現われ、その船首には、羅勲児の姿が見える。
(「アリス」公演では、大将に扮した白馬に乗った羅勲児とその騎馬隊が分かれた画面から現われた。
それ以前の演出では、「コスモス」公演で、オープニングではないが、「각설이 타령」(乞食ターリョン)の曲中で、分かれた画面から、羅勲児が扮した乞食が現われている)
バックの音楽では、大勢で船をこぐような効果音と、呪文のような合唱コーラスが流れ出す。
ここまでは、何の曲が始まるのかわからない。
舞台上では、先ず右側から、そして次は左側と、2艘の船が現われ、船上には、それぞれバックコーラス陣が見える。そして、やっと、聴き覚えのある曲のイントロが流れ出す。
オープニング曲、「고향으로 가는 배」(故郷への船)の始まりだ。
「アリス」公演での当曲は、全編に流れる、生ギターの哀愁の音色と、舞台画面上の寂しげな小船が印象的だったが、今回は、かなり印象が異なる。
船は大きくなり、3艘に増え、また、バックコーラスは、大合唱団付きで、重厚さが増している。。
観客席側に目を向けると、舞台に向かって、左右それぞれに、大型スクリーン画面が設置されていて、右側には大合唱団、左側には舟をこぐダイナミックな動作を繰り返す、男性大軍団が映し出されている。
そして、本来は観客席がある場所に、大型スクリーン画面が設置されていて、荒れた海の様子を映し出している。舞台に加えて観客席側までも舞台装置で埋め尽くされていて、KBSホール全体が実質的に舞台になっている。
結果、大迫力の舞台装置になっている。
(無観客で、無人の客席側が画面に映し出されたら、出演者も盛り上がらないし、視聴者も寂しくなる。その客席をスクリーン画面装置で、埋め尽くしたのは。一石二鳥の効果だ)。
さて、曲の方だが、羅勲児の歌声は、15年前の「アリス」公演と変わらず、元来、羅勲児の持つ、優しさと力強さを兼ね備えた声音を維持していてさすがだ。
表情はというと、緊張気味なのか、少しナーバスな印象を最初は受けたが、曲が進むに連れて、いつもの羅勲児に戻っているようだ。。
(特徴の濃い眉毛もかなり白くなり、顔全体も白くなったが、そのためか、温和な印象が強くなったように思う)
そうこう、考えているうちに、いつの間にか、曲のエンディングになっていたが、変わらぬ羅勲児の歌声に、この後の展開が楽しみで仕方がない。
(2020.10.19 美辞麗句)